「今が一番楽しい」56歳からの新たな挑戦
介護美容セラピスト 佐野理恵さんが語る人生の輝き
「55歳、今は56歳ですが、そういう時期が来るとは思ってませんでした。なので今が一番楽しいです」
そう語る佐野理恵さんの表情は、まさに輝いている。4人の子育てを経験し、様々な困難を乗り越えてきた彼女が、人生の後半戦で見つけた新たな生きがい。それは母の死をきっかけに出会った「介護美容」という分野でした。
佐野理恵さんプロフィール
56歳。4人の子供を持つ母。保育士資格を持ち、現在は病児保育士として勤務しながら、介護美容セラピストとしても活動。去年、22年間パーキンソン病を患った母を亡くしたことをきっかけに介護美容の世界に足を踏み入れる。現在は自宅サロン開業を目指し、カメラやメイクの勉強にも取り組んでいる。
穏やかな笑顔で語る佐野理恵さん
美とライフステージ
鏡を見る時間について尋ねると、佐野さんは率直に答えます。
「特にシミが増えてきたことで、テンションがあまり上がらない、鏡を直視したくない気持ちになりますね」
50代になって美容への意識も変化したといいます。
「乾燥すると老化が進むので、乾燥しないように保湿には気をつけるようになりました。食も大切と思って発酵食について学び、朝食は麹ともち米で作った甘酒とヨーグルトやミックスナッツなど焼き芋やかぼちゃなどを入れて食べています」
そんな佐野さんが女性として一番誇りに思うことは、美容の持つ力でした。
「お化粧やネイルなどをすることで、見た目だけでなく、心がウキウキしてきたり、心から笑顔になれるようなことができるので、それで女性として得したかなと思いますね」
年齢を重ねることで、佐野さんの美意識は大きく変化してきました。20代、30代の頃は外見を気にすることが多かったといいますが、今は違います。
「若い頃は人の目をすごく気にしていて、メイクも完璧でないと外に出られないような感じでした。でも今は、まずは健康でいること、そして自分らしくいることが一番美しいと思えるようになりました」と振り返ります。シミやシワといった年齢のサインも、今では人生の歩みの証として受け入れられるようになったといいます。
特に印象的なのは、美容に対する価値観の変化です。「昔は雑誌の美容特集を見て、同じようにならなければと焦っていました。でも今は、自分に合うもの、自分が心地よいと感じるものを選ぶようになりました。年齢を重ねると、自分のことがよく分かってくるんですね」。この自然体の美しさこそが、佐野さんの魅力の源泉なのかもしれません。
自然光に包まれて語る佐野さん。年齢を重ねることで得た内面からの美しさが輝いている
困難を乗り越える力
佐野さんの人生には、多くの試練がありました。特に子育て中の困難について語る時、その表情は真剣になります。
「子供が学校に行かない選択をした時期が一番大変でした。世の中では不登校というのかもしれませんが、心と体を守るために、あの時、私の子供は学校に行かないことを選んだのだと思っています」
最初は理解できず苦しんだという佐野さん。しかし、ある時心境の変化が訪れます。
「生きてくれてさえいれば、何年か後にやりたいことが見つかった時に、好きなことに笑顔で取り組むことができる時が来るかもしれない。もしその日が来なくても、私が80歳になったとしても、生きててくれればそれでいいかと心から思えた時が、それを乗り越えられた時という感じですかね」
そんな困難な時期を支えてくれたのは、意外にもインドの教えでした。
「インドの教えっていうのは迷惑をかけないようにしようと思っていても生活しているうちに知らず知らずにかけていることもあるので、だから人を許してあげる心を持ちましょうという教えなのだそうです。子育ての考え方が私も180度変わり、私の考え方がそう変わったことで家庭も母親が笑顔でいると子どもたちも笑顔が増えてきたように思います」
この経験を通じて、佐野さんは多くの大切なことを学びました。「最初は『なぜうちの子だけ』と思ったり、周りの目が気になったりしました。でも、子供の気持ちに寄り添うことの大切さ、そして親の価値観を押し付けることの危険性に気づいたんです」
同じような悩みを抱える親たちへの想いも深くなりました。「今、同じような状況で苦しんでいる親御さんがいたら、まず子供の命が一番大切だということを伝えたいですね。学校に行くことが全てではないし、その子なりのペースがあることを受け入れてあげてほしい」と語ります。
この体験が、後の介護美容の仕事にも大きな影響を与えています。「人にはそれぞれのタイミングや状況があることを理解できるようになりました。利用者の方々に接する時も、その方のペースを大切にし、無理をさせない。子育ての経験が、今の仕事にも活かされているんです」
4人の子育てを経験し、様々な困難を乗り越えてきた佐野さん。家族との絆が今の彼女を支えている
新たな挑戦
人生で一番輝いた時期はいつかという質問に、佐野さんは迷わず答えます。
「この質問に関しては迷わず、今ですね」
その理由は、母の死をきっかけに出会った介護美容という分野でした。
「去年、母を亡くしたことをきっかけに介護美容というものがあることを知りました。そしてセラピストとして活動を始めて、もちろんご利用者様、高齢者の方たちの出会いもですが、介護美容の学びからつながった方々との交流や学び、学ぶことがこんなに楽しいと思える時が、55歳、今は56歳ですが、そういう時期が来るとは思ってませんでした」
介護美容セラピストとして活動する佐野さん(中央)。利用者の方々との笑顔のひとときが彼女の原動力
介護美容を学び始めてから、佐野さん自身にも大きな変化が訪れました。「今まで病児保育の仕事はしていましたが、高齢者の方々と接するのは初めてでした。最初は緊張したけれど、皆さんの人生経験の豊富さ、そして美しくなりたいという気持ちの強さに感動しました」
特に印象的だったのは、90歳を超える利用者の方とのエピソードです。「その方は車椅子生活でしたが、お化粧をしている間、昔のお話をたくさんしてくださって。メイクが完成した時の笑顔は本当に美しくて、私の方が元気をもらいました。『ありがとう、久しぶりに女性になれた気がする』って言ってくださったんです」
こうした経験を重ねる中で、佐野さんは介護美容の真の意味を理解するようになりました。「単に見た目を美しくするだけじゃない。その方の尊厳を大切にし、生きる喜びを感じてもらうことなんだと気づきました。毎回、利用者の方から学ばせてもらっています」
若い頃に描いていた50代のイメージとは全く違う現実があります。
「若い頃思っていた50代はそうですね、もう結構おばさんかな、みたいな感じがしてたと思うんですが、今は実際そういうイメージはなく、今の自分が一番楽しいですし大好きです」
将来の夢について語る佐野さんの目は輝いています。
「直近の目標としては自宅のサロンを作ることを目標にしています。そちらのサロンは、私はもちろんご家族の方にも来ていただいて、お父様やお母様の変化を見ていただける場として、今はカメラも勉強しながら、セラピープラス撮影もできたりとか、ちょっと心が楽しかったり、しゃべって心が楽になるような場所づくりにしたいなと考えています」
10年後の自分については、こんな野望を語ります。
「私の介護美容の野望は、ひらがなの『にこ』で、『和』という漢字のサロンという野望にしたんですけど、その意味としてはにこやかにほがらかにということで、皆さんに笑顔でいていただける空間を作れるような、自分もそうですし、人間としてサロンにしたいと思っています」
人生への想い
もし20代の自分に会えるとしたら、どんな言葉をかけるでしょうか。
「道を選ばなきゃいけなくなった時、やっぱり楽しいな、こっちに進んだ方が楽しいなって思う方を選んだ方がいいよって多分声をかけるかなと思います。そして、50代になったあなたは毎日楽しんで過ごしているよって伝えたいと思います」
次の時代の女性たちへのメッセージは、自分軸の大切さについてでした。
「自分軸を大事にしてねっていうことをよく伝えるんですけど、やっぱり人の目を気にしているのが他人軸で、いくら人の目を気にしていても、人の考えとか、例えば行動とかっていうのは変えられないじゃないですか。だから自分でやりたいって思うこと、自分が思うように、人を傷つけることは違いますけど、自分が思うように楽しいと思うことをしていった方がいいと思います」
そして、「普通」という概念についても独自の視点を持っています。
「普通っていう常識、それぞれの普通があるので、自分の普通を自分軸で通してもらえたら、心が軽くなるかなって思います」
同世代の女性たちに対して、佐野さんは特別なメッセージを持っています。「50代って、本当に面白い年代だと思うんです。子育てもひと段落して、自分のための時間ができる。体力的にはピークを過ぎているかもしれないけれど、経験値は最高潮。何かを始めるのに遅すぎるということはないんです」
若い世代との関わりについても、新鮮な発見があります。「介護美容の勉強で出会う若い方たちは本当に優秀で、私も刺激を受けています。年齢の差を感じることよりも、同じ目標に向かって学ぶ仲間として、とても心強い存在です。彼らからSNSの使い方を教わったり、逆に人生経験を話したり、お互いに学び合える関係が築けています」
世代を超えた交流の中で感じるのは、人間の本質的な部分は変わらないということです。「みんな、認められたい、役に立ちたい、幸せになりたいという気持ちは同じ。年齢や立場は違っても、そこに共感できるから、自然と良い関係が生まれるんだと思います」
人生で一番大切だと思うことについて尋ねると、佐野さんはこう答えました。
「もちろんそれは命かなと思います。だからこそ、自分にかけてあげる言葉も、周りの人にかける言葉も、口から出たり耳に入ってくる言葉が、やっぱり幸せな言葉だと幸せになりますし、それはやっぱり意識して、いい言葉を使うようにすることが一番大切なことなんじゃないかなって思います」
インタビューの最後、プロによるメイクを施された鏡の中の自分を見た佐野さんは、こう語ります。
「これが私っていう感じです。今日はとても丁寧に、私そんなのやったことないみたいなことも、私のパンツの色に合わせてくれたりとか、私に合うメイクをしてくださったので、とてもテンション上がって幸せな気持ちです」
「本当に今日みたいに自分が主役みたいなメイクも魔法のように自分の顔が変わっていくし、撮影のときも恥ずかしいっていうよりも自分が乗ってきてしまって、素敵とか綺麗とか言われると、その気になってポージングしている自分が、普通にできてしまっている自分が不思議で、とても素晴らしい時間であったので、人にぜひ勧めたいなと感じました」
自宅サロン開業に向けて、撮影技術も学ぶ佐野さん。美容と写真を組み合わせた新しいサービスを目指している
今一番感謝している人として亡くなった母の名前を挙げる佐野さん。
「きっと今上から見てくれてるかなと思いながら頑張っています」
そんな彼女の新たな挑戦は、まだ始まったばかりです。